シンポジウム「障害者による芸術文化活動のこれから」(主催:厚労省、YPAM連携事業)に参加しました(12/11)

 先週12月9日に実施されたシンポジウム「障害者による芸術文化活動のこれから」は、現在厚労省が推進している「障害者芸術文化活動普及支援事業」の一環でした。実は文化庁にも「障害者等による文化芸術活動推進事業」があります(現時点のサイト情報では令和5年度の事業募集があるのか不明ですが)。そもそも「芸術文化」と「文化芸術」の違いとは何か、両庁の言葉/概念の定義の違いも気になるところでした。

 何より現時点では福祉の中にある芸術(厚労省)、芸術の中にある福祉(文化庁)がきっぱりと分断されている訳でもありません。アーティストを含めて関わる人が重なっている現場も珍しくありません。それぞれの現場で求められていることが違う場合もあるし、そうではない場合もある。国内では幸か不幸かオリパラ文化政策とパンデミックが重なったことで、芸術や福祉の概念や在り方の問い直しが求められていて、当事者を含めた活発な議論が始まったところだとも言えるでしょう。今回紹介された世田谷パブリックシアターのアウトリーチやPalabra株式会社のアクセシビリティへの取り組みはもちろん、筆者も7年間ご一緒している新井英夫さん(進行性の難病闘病中)と鈴木励滋さんのカプカプ・ワークショップの事例は、実際に現場に関わっていくフリーランス・アーティストや福祉施設スタッフにとっても興味深い内容だったと思います。
 現在、障害や福祉を考える上での世界的動向は「医学/医療モデル」「社会モデル」から「肯定モデル/共犯モデル」に移行しつつあるということは、先日出席したアートミーツケア学会でも学びました。カプカプはまさに新しい福祉モデルであり、芸術でもあると感じています。カプカプではメンバーはもちろん、訪れたアーティストも大事にされますし、実はこの7年間の現場で「障害者」という言葉を一度も聞いたことがありません。ケアする/される境界に相互関係を生むのが「芸術活動の力」だと実感しています。
 超高齢化の進む社会の中では、これまでの「健常者」「障害者」という二項対立の境界はどんどん曖昧になっていくはずです。実際に筆者が住む東京郊外を走るバスの乗客は、ほぼ全員が高齢者で杖を使用しています。たった二席の「優先席」の意味も無くなっています。80代半ばの母の耳は補聴器が無ければほとんど聴こえなくなりました。障害がある人を「エンパワメント」していたアーティスト自身が病や高齢で身体が不自由になることも当然あります。一方的に「ケアする立場」だけを担わされている施設スタッフさんをケアする人が必要であるように、本来は芸術/芸術家を対象にした「福祉」も必要になるはずです。既に、ろう者によるろう者の芸術家育成プログラムが始まっていますが、障害の当事者が主体的につくる芸術(教育)の場もさらに増えていくことでしょう。
 つまりは誰もが「よく生きる」社会とは何か。芸術文化活動の在り方もひとつの指標になることは間違いありません。

 
 例えばカプカプの新井一座ワークショップの場は予定調和には収まりません。豊かなアイデアを持つメンバーが主導となって場が展開していくこともあります。そこでは芸術が得意とする即興性や創造性や実験性が生き生きと発揮されていくのです。「作品」という成果(訓練)が強要されずにプロセスを重視する時間には、芸術の「リレーショナル・アート」や「ワーク・イン・プログレス」のような受け止め方が必要になるはずです。新井さんも映像で話していましたが、「障害者」と言われるメンバーひとりひとりの内にある芸術が表出するための「きっかけ」を見つけ出すこと、アーティストは少し背中を押してあげるタイミングに集中すればよいのです。「指導する/される」ではなく、芸術を媒体に平等な関係性や表現の自由を第一に考えます。

 カプカプの事例のように、成果ではなく相互の関係性、メンバーの日常を豊かにするプロセスの積み重ねに目的を移していくと芸術が途端に生き生きとします。これは皮肉なことに学校教育や能力主義の芸術教育とは対極にあると言えて、だからこそ専門教育を受けた人こそ世界との関わり直し、捉え直しが必要になると感じています(筆者がそうでした)。先週のアートミーツケア学会に続き、芸術教育の問題も炙り出されたようなシンポジウムでした。

〇このシンポジウムの収録動画は後日公開される予定です。


執筆:ササマユウコ(音楽家、芸術教育デザイン室CONNECT/コネクト代表)

東日本大震災を機に、「音楽、サウンドスケープ、社会福祉」の実践研究中。横浜福祉作業所カプカプ(新井英夫の身体ワークショップ)では7年間「音担当」として関わり、野口体操の哲学とサウンドスケープの親和性の高さに注目している。2020年コロナ以降は、文化庁、東京都の助成で映像制作、東京芸術劇場社会共生セミナー「もし世界中の人がろう者だったらどんなオンガクが生まれていた?」、学会ジャーナル執筆等でサウンドスケープの哲学を伝えている。