東京大学駒場博物館では現在、特別展『境界を引く⇔越える』が開催されています(無料)。
アート(芸術)とサイエンス(科学技術)をつなぎながら双方向を行き来する、とても興味深い内容です。この企画は同大学の博士課程プログラム(※)として、渡部麻衣子特任講師(科学技術社会論)と、画家の池平徹兵さん(顕微鏡絵画ワークショップ・インストラクター)との「つながり」から生まれました。
例えば、渡部さんが大学を外(福祉施設)につなぎ、さらに池平さんがその施設の人たちとつながる。そこでの協働作業から生まれた大きな絵や鯉のぼりが「共生社会」の象徴のように会場内に印象的に飾られています(チラシ写真も作品のひとつ)。池平さん自身にとっても「個」の境界を越える作品です。
他にも池平さんとブリアンデ・カナエさん(アクセサリー作家)による海を越えたモノづくり「OFIICE BACTERIA」の仕事や、顕微鏡の中の世界を3D作品にして外の世界につないだ作品など、「境界を越えたモノ」が様々な視点を投げかけながら展示されています。駒場の各研究室の音を集めてコラージュされたというgOさんのBGMも、会場内に柔らかなサウンドスケープをつくりだしていました。モノやオトやサイエンスは「関係性」なのだとあらためて気づかされる空間です。
今回の渡部さんは科学とアートを、また先日の「視覚障害者とつくる美術鑑賞ワークショップ」でお会いした東工大伊藤亜紗准教授は美学と生物学をつないでいます。お二人とも30代の母親であることも興味深い。出産や育児という研究者自身の「境界を越える経験」が学術を外の世界へとつなげていく。「共生社会」を考える上で「福祉」の視点は不可欠ですが、研究者のコトバが外の世界に伝わらない/届かないでは意味がない。だからこそ彼女たちの「身体を通ったコトバ」は「外の世界」とつながることが意識されていてわかりやすい。それはとても大切なことだと思いました。
男性中心の科学の歴史の中で、いつしか分断されてしまったアタマ(コトバ)とカラダ。アタマの中だけで作られた専門用語は内の世界に留まり難しく、結果として科学のウチとソトを切り離す。まずは人間として「当たり前」の感覚を研究に取り戻し、そもそもはひとつだった「科学と芸術」をふたたびつなぐこと。それは双方にとって、また硬直した社会にとっても新しい風となる予感がするのでした。
特に原発事故という「身体感覚の欠如」や「科学技術の失敗」を経験した時代だからこそ、自分の世界の外側にある(と思い込んでいる)科学のコトバや感覚には誰もが意識的につながっていく必要があると思うのでした。アートには科学の「ウチとソト」をつなぐチカラがある。境界を行き来する世界の在り方や関係性のつくり方は「内と外を柔らかにつなぐ」ことを目的に始まったコネクトの考える「芸術」ともリンクします。
だからまず、科学の出発点にありながら一般の暮らしには縁のない「顕微鏡の世界」を覗いてみる。そこで生まれるシンプルな感動や発見に、芸術と科学の本質が見えるかもしれません。
〇この展示は6月28日まで。会期中はさまざまな週末イベントも予定されていますので、ぜひお気軽にお出かけください。 詳細はこちらから→
(※)東京大学大学院博士課程教育リーディングプログラム「多文化共生・統合人間学プログラム(IHS)」教育プロジェクト3「科学技術と共生社会」
2015.5.11(ササマユウコ記)