身体と音の「対話」を探るこころみ

私の音をあなたに。(横浜ひかりが丘小学校コミュニティ・ハウス)
私の音をあなたに。(横浜ひかりが丘小学校コミュニティ・ハウス)

①日本音楽即興学会@神戸大学
10月末に神戸大学で開催された日本音楽即興学会に出席しました。今年度の基調講演はNY大学ノードフ・ロビンズ音楽療法センター/アラン・タリー氏ということもあり、現場で働く音楽療法士、即興音楽家、研究者など、さまざまなバックグラウンドを持つ「音楽家」たちが集まりました。アラン氏の臨床例をもとに自由闊達なディスカッションも展開され、非常に有意義で「即興的であること」を楽しむような学びの場となりました。後半は大友良英さんの参加でも注目された「音遊びの会」代表の沼田里衣さんもパネリストとして参加され、洋の東西のアプローチの違いや、「即興とは何か」を本質的に考える機会ともなりました。この学会は『音楽療法を考える』を始め、示唆に富んだ音楽の本を数多く書かれて/訳されている若尾裕先生が中心となって関西で展開されています。特に『音楽療法を考える』は音楽療法の場を即興音楽が生まれるクリエイティブな場と捉え直した非常に興味深い内容で、音楽療法の関係者はもちろん、創造的な即興演奏の場を考える音楽家たちにも是非ご一読をおすすめします。

②「コトバのない対話」は可能か?

また11月からは、横浜にあるカプカプひかりが丘の皆さんと体奏家の新井英夫さんが何年もかけて築いてきた「信頼関係」を礎に、新井さんと筆者の「ある実験」が始まりました。

今までとは少し違う風を即興的に送りこむことで、そこにある関係性、そして何より自分たち(身体と音)にどんな変化が起きるか?ということを見つめコトバにする「対話」のプロジェクトです。ノンバーバル・コミュニケーションの領域にいる身体と音の表現者があえてコトバと向き合う「こころみ」の場。

和室のつくりをステージと客席に見立てたり、元小学校内の心地よい響きに耳をひらくなど、「場」そのものとのコミュニケーションも意識しながら、カプカプの皆さんがサウンドスケープを自らデザインするような展開も心がけたいと思います。この日の午後は、新井さんのリードで廊下全体に「あるく音の森」が出現し、静かで穏やかな「耳をすます」時間が皆さんの内側から生まれました。
今後は、このカプカプの皆さんとの間に生まれた「即興時間」を、再び芸術家の間でふり返り、それをまた現場に戻すという「循環」を目指します。そのプロセスで生まれたコトや関係性そのものを「オンガク」や「ダンス」と捉え直し、できれば広く共有できる自分たちのコトバに変えていく。少し欲ばりですが、方法論の追究に陥らない哲学的な冒険を目指したいと思っています。(ササマユウコ記)