昼と夜が同じ長さになる春分の日。前日には町田の桜も開花宣言。まさに「春のはじまり!」となった特別な一日に「空耳図書館のはるやすみ」を開催しました。(和光大学ポプリホール鶴川3F エクササイズルーム)
今年度は午前/午後ともに多くの応募を頂きましたが、特に午前は昨年のリピーターさんで埋まり、一年ぶりに子どもたちと再会!その成長ぶりを前に感慨深いものがありました。何より「時間をパッケージ化しない」ことを目的にした、実験的&即興性のある内容でしたので(しかも初回は手探りなことも多く)、再び足を運んで頂けたことは大きな励みとなりました。
空耳図書館は「ちょっと不思議な読書会」と名付けられ、文字のない絵本、オノマトペやナンセンス、どちらかと言えば感覚的で五感を刺激するような内容の絵本を題材にしています。
きれいな絵の本はそのまま「舞台セット」に見立てたり、楽譜のように解釈することもあります。時にはその世界をはみ出して音や身体を使ってどこまであそべるか、そこに生まれる「空耳」(想像力)を刺激していきます。「指導」ではない声掛けをしますので、最初は戸惑うお子さんもいらっしゃいますが、自分が動いたり反応することをアーティストが丁寧に掬い上げ、その場の流れや空気が変わっていくことがあると気づきだすと、いつの間にか夢中になって参加しています。いつもは注意されたり、怒られたりするようなことも「それ、いいアイデアだね!」と褒められたりする場面では、本人以上に保護者にとっても新しい気づきがあるようです。
出演者たちは大きな「流れ(決め事)」を把握していますが、いちばん大切にしているのは「目の前にいる人たちとの関係性」です。そこにいるすべての人たちが対等ですし、もちろん筆者も含めた出演者同志もノンバーバル・コミュニケーションを取りながら、次にどう動くかを考え、即興的なセッションには参加者も気軽に入れるような雰囲気をつくります。ただし今回のような0歳から5歳の異年齢交流の場合、年長さんにはあえて「役割」を担ってもらい、赤ちゃんとの「線引き」は明確にあってもよかったのかもしれません。ここは、まだ試行錯誤の段階です。さらに昨今の「評価」や「成果発表」を前提にした「学校型」のワークショップから一度アーティストを解放して、彼らの内にある本来のクリエイティビティや想像力を参加者と自由に交感してもらう場としてもひらき、それを感じ取る子どもたちの生命の輝きは、引き続き大切にしたいと思っています。
そしてもちろん、この実験が可能になるのは、講師のアーティスト(音楽家・橋本知久さん、ダンサー/振付家 外山晴菜さん)が、国の内外で経験を積んでいる高いスキルや即興性を持った方たちだということです。その経験が下地にあるからこそ、一見’でたらめで’予測のつかない魅力的な世界が生まれていきます。
今年は「きこえる?はるのおと」をテーマにして「春分の日」という「宇宙の音楽」から花のひらく音、そして心臓の音や、おとなが身体と向き合う時間も経験して頂きました。まだ発展途上のプログラムですが、パッケージ化(完成)させないギリギリのところでの「空耳図書館」として進化を遂げたいと思っています。
後日頂いた感想には「はるのおと」に気づいた子どもたちの生き生きとした声が届きました。何より保護者の皆さんもリラックスした「時間そのものを」楽しんで頂けたようで、このプログラムが持つ様々な可能性を感じました。 (ササマユウコ記)
●平成27年度子どもゆめ基金助成事業
開催日:2016年3月20日 場所:和光大学ポプリホール鶴川3F(エクササイズルーム)
講師:トパさん(橋本知久・アトリエ・ラーノ代表/音楽家)
はるなさん(外山晴菜・ダンサー/振付家)
空耳図書館ディレクター ササマユウコ
主催:芸術教育デザイン室CONNECT/コネクト
●今回ご紹介した絵本
『きこえる?』はいじまのぶひこ作 福音館書店
『はるのおとがきこえるよ』
マリオン・デーン・バウワー文 ジョン・シェリー絵 片山令子 訳 ブロンズ新社
『木のうた』イエラ・マリ ほるぷ出版
『はるにれ』写真:姉崎一馬 福音館書店
『さがしてあそぼう春ものがたり』ロートラウト・スザンネ・ベルナー作 ひくまの出版
●参考文献
『音さがしの本~リトル・サウンド・エデュケーション』
M.シェーファー/今田匡彦 春秋社
『センス・オブ・ワンダー』 レイチェル・カーソン 新潮社
『グレープフルーツ・ジュース』 オノ・ヨーコ 講談社
『みみをすます』 谷川俊太郎 福音館書店
●オトになったモノたち
・紙コップ/紙(新聞紙)/ペットボトル/クッキー缶/木の実/トイレットペーパー/口笛(声)/ラップの芯/
アーティスト使用の音具として カリンバ、鈴、シェーカー(ペットボトルとビーズ)