2019年5月19日【日・満月】第8回の「即興カフェ」を終了いたしました。今回のテーマはカナダの作曲家R.M.シェーファーがサウンドスケープ論を提唱した著書『The Tuning of The
World 世界の調律』の中で記した「Sonic Universe! 鳴り響く森羅万象に耳をひらけ!」に因み、「ひらく」でした。ひとくちに「ひらく」と言っても、日本語の辞書を開くだけでも予想以上に多くの意味が込められた言葉であり、何より人間にとって大切な「感覚」だということが解ります。
今回はまず「音と場」を「ひらく」をテーマに出入り自由、子どもや妊婦さんOK、聞くスタイルも自由(寝転がってよし)、ヨガマット持参も可という条件にしました。そして会場は、東京郊外の古民家を改装し地域に緩やかにひらいたアーティスト・ラン・スペース(現代美術の分野でアーティストが自主的に運営しているアート発信の場)として注目の「府中メルドル」さんでした。
文末のリンクから当日の動画等も視聴可能です。スマホ記録ですのでストリングラフィの立体音響やシタール、ピアノの倍音もカットされてしまいますが、当日の雰囲気だけでも伝われば幸いです(2時間30分の内の2分ですが)。そして、できれば専用ページにある過去回の動画と見比べて頂くと「サウンドスケープの哲学から新しいオンガクのかたちを実験する」即興カフェの目的がお分かり頂けると思います。音楽とは「人と場がつくる関係性の音風景」であり、演奏者や空間や奏でる音が変り、毎回の「テーマ(言葉)」が変ることでも生きもののように変化する。各回ごとに編み出された音の風景の違いを少しでも感じて頂けたら幸いです。興味深いのはテーマや場所によって集まるお客様の雰囲気も変ることです。ちなみに前回2月の「ウチはソト、ソトはウチ」はほぼ男性、そして今回は元気な女性たちが印象的でした。
音楽には、外音を排し「演奏者と聴衆」という境界のある関係性に則って音に集中する従来の楽しみ方もあれば、すべての音や人を音の風景として受け入れながら最終的には演奏者と参加者の境界が消えて、大きなひとつの風景を生む醍醐味もあります。「即興カフェ」ではそのどちらも愛すべき音楽の在り方として、一期一会の出会いを大切にしています。まさに「生きることは即興なり」。「今」に集中する即興の場です。
ちなみにサウンドスケープ論のM.シェーファーはインド古典音楽やヨガ哲学への造詣が深く、アカデミックな場ではあまり触れられませんが、著書『世界の調律』では折に触れその考え方を紹介しています。また教室にヨガを導入し全身をリラックスさせる(全身を耳にする)ことの有用性を70年代から実践・提唱していました。
今回の時間の中でインド古典音楽の「ラーガ(法則)」を伊藤公朗氏から学びましたが、自由な即興演奏の背景には細かなルールや沢山のフレーズやパターンが存在していることは新たな発見でした。そのひとつひとつを演奏家は長い時間をかけて鍛錬し、身体に染み込ませた先にあるのが「自由」な即興です。さらにピアノとシタールの共通の起源に想いを馳せたり、ストリングラフィの絹糸をシルクロードのように辿ったり、子どもたちにも演奏の場を開放し、部屋のあちこちから宇宙的な音が鳴り響く文字通り森羅万象に耳をひらく時間がありました。出演者がテーマ「ひらく」に沿って選んだ言葉で作った「おみくじ即興」も恒例となりました。言葉から引き出される音の風景です。
この場をどう捉えるか。それはもちろん参加された皆さんの自由です。この音風景は「好き/嫌い」でしたか?それは「なぜ」でしょう?「即興カフェ」の一度きりのサウンドスケープが、皆さんの世界の「ウチ/ソト」へ、「音楽とは何か」を問いかけるきっかけとなれば幸いです。
そしてシェーファーはコミュニティ・ミュージックへと向かうのでした。(ササマユウコ)
第8回即興カフェ『満月|森羅万象に耳をひらけ!』
音と場をひらいた人
北インド古典シタール:伊藤公朗
ストリングラフィ:鈴木モモ
進行・ピアノ:ササマユウコ
日時2019年5月19日(満月・日)
会場:artist-run space 府中メルドル
主催:即興カフェ produce:Yuko Sasama ×Curate:Momo Suzuki
◎イベントの詳細や当日の写真は動画はこちらから
即興カフェ専用Facebook www.facebook.com/improcafe
執筆:ササマユウコ(音楽家・コネクト代表)
1964年東京生まれ。3歳からピアノ、10歳から楽典を学ぶ。都立国立高校⇒上智大学文学部教育学科卒(視聴覚教育、教育哲学)、弘前大学大学院音楽教育講座今田匡彦研究室社会人研究生(サウンドスケープ、サウンド・エデュケーション研究2011~2013)。大学卒業後、企業の文化メディア総合職、劇場スタッフ等を経て、2000年代はCD6作品を発表し、現在もN.Y.から世界各国で配信中。2011年の3.11を機に演奏活動を一旦休止。町田市生涯学習部から2014年に芸術教育デザイン室CONNECT/コネクト設立・代表。「即興カフェ」の前身「音楽×やさしい哲学カフェ シェーファーとサウンドスケープ」(講師:今田匡彦(弘前大学)2015年1月@日本橋DALIA)以来、「即興カフェ」全8回のプロデュースとピアノ演奏を担当。ちょっと不思議な読書会「空耳図書館」ディレクター、協働プロジェクト「聾/聴の境界をきく」、路上観察学会分科会、哲学カフェなど「芸術と学術、人と人」をつなぐ活動を展開中。福祉作業所、児童養護施設、ホスピスでの音楽活動も積極的に行っている。