第50回日本音楽教育学会に参加しました(雑感)

 各地に甚大な被害をもたらした台風が続いた10月。ふり返る間もなく終わってしまった感があります。イベントが続きブログが滞りがちですが、日々の活動はコネクトFBでご紹介していますので、どうぞこちらもご覧ください。
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 10月19、20日は東京藝術大学音楽学部で開催された「第50回日本音楽教育学会」に参加しました。数年ぶりの参加となりましたが、発表された研究には社会や時代を見据えたテーマが増え、研究の世界にも新しい風が吹き始めていることを実感しました。
 筆者(ササマユウコ)のコネクト活動「耳の哲学」の母体となる弘前大今田研究室からは、サウンド・エデュケーション(図形譜)実践ろう学校の音楽教育、公共性やアクティブラーニングを視野に入れたユニバーサルな音楽教育論、そして哲学の視座と、活動ともリンクする内容が続きました。他にも、社会福祉や音楽療法として行われるコミュニティ・ミュージックや、そのノルウェイ刑務所での実践視察、スペインのジャーナリストが考案した絵本読み聞かせ「アニマシオン」等が「空耳図書館のおんがくしつ」とも重なって興味深かったです。
 一口に「音楽教育」と言っても実はとても幅広いですが、この学会は「学校教育」の研究が軸にあります。筆者自身は「学校教育」には携わっていませんが、自身が受けた教育、明治維新から150年の間に構築されたある意味とても特殊な「学校の音楽」も、来年度の教育改革を機に大きく変化していく予感がありました。特に公共の「学校の音楽」は本来、M.シェーファーが既に40年前に示唆したような「全的教育」であることが望ましいと考えます。何よりまずは「きく」ことの大切さ。鑑賞から哲学対話を、世界中の楽器の音や成り立ちからは歴史や風土や美術を考えるきっかけも生まれます。自分をとりまくサウンドスケープから環境を知り、さらには「音のない世界」を想像する。音楽教育を通して「鳴り響く森羅万象に耳をひらく」ことは、自分が今生きている世界を学ぶことにつながるのです。指揮に合わせた「音楽作品」の合唱や演奏は、本来これらの「きく」体験をした後の音楽教育とも言えます。
 ちなみに写真(上)は、実は音楽ではなく美術教育「こんな授業をうけてみたい!!」(美術と教育 全国リサーチプロジェクト2019)の看板です。ちょうど同日、東京藝大音楽学部と道を挟んだ美術学部美術館の地下で開催され、コネクトでもお馴染みの体奏家・新井英夫さんが小学校で実施した「カラダで図工」や、石を造形的に写し取る筑波の試み、弘前大付属特別支援学校での「つむ」ワークショップ的授業など、色彩豊かな会場構成や内容も含め「面白そうな授業」がたくさん展示されていました(11月4日まで)。そもそもサウンドスケープの思考レッスン「サウンド・エデュケーション」はシェーファーも著書『教室の犀』で示唆したように美術教育からのヒントが沢山ありますし、学校にはもっと総合的な「芸術教育」が必要な時代なのではないかと思うのでした。学校指導要領に領域を横断する仕組みがないことが「芸術教育」を実現できない最大の原因なのだと思いますが、研究者や教育者や芸術家がもっと個人レベルで境界を越え、相互に関わることでオルタナティブな「知」、新しい時代のリベラルアーツを考える機会は生まれていくのではないかと思いました(コネクトの宣伝のようになってしまいますが)。
 M.シェーファーが40年以上前に「サウンドスケープ」という考え方を音楽の学会で発表したとき、研究者たちから「嘲笑された」ことを今も忘れないといいます。未来を見据えた新しい発想や思考が権威者たちに拒絶されるのは世の常なのかもしれません。しかも「新しい考え方」が一般に広く受け入れられるには長い時間を有することは、コペルニクスの地動説でさえ浸透するのに100年かかった歴史からもわかります(しかし否定された「天動説」も視点を変えれば間違いではない?という疑問も生まれます)。

 教育には時間がかかる。「最中」は時間が止まっているような感覚さえあります。年単位の時間が過ぎたある時点で立ち止まり、ふり返ったときに「変った」と認識するような時間の在り方が「教育の時間」なのだと思います。それは良くも悪くもだからこそ、矛盾するようですが「今」に集中しなければならない。芸術は「評価」軸が違うことを自覚しつつ、社会や時代の変化には敏感にありたいものです。

 ちなみに筆者は、2011年の東日本大震災を機にサウンドスケープの弘前大学今田匡彦研究室に社会人研究生として籍を置き、2013年まで哲学やサウンド・エデュケーションの研究で学会に参加しました。本名(今井裕子)で『音楽教育実践ジャーナル』(2014 査読付)、『音楽教育学』(2013)への寄稿、音楽家として東北地区の研究者に向けたワークショップも実施させて頂いています。ご興味のある方は下記までお問合せください(ササマユウコ)


筆者:ササマユウコ(音楽家/Artist)

サウンドスケープを「耳の哲学」に世界のウチとソトを思考実験中。

芸術教育デザイン室CONNECT/コネクト代表。
1964年東京生まれ。都立国立高校、上智大学文学部教育学科(教育哲学、視聴覚教育)、セゾン文化総合職(映画仕入れ)、レーベル運営(CD制作)など。東日本大震災を機に弘前大学大学院今田研究室(2011~2013)、自治体市民大学、コネクト設立。
お問合せ:tegami.connect@gmail.com