Re:Signing Project『聴者を演じるということ 序論』記録@北千住BuOy

 5月5日は、北千住BUoyで開催された『〜 視覚で世界を捉えるひとびと』(主催Re; Signing Project)に伺いました。
 視覚や手話をテーマにした実験的なギャラリー展示に加えて、地下スペースでは舞台《聴者を演じるということ 序論》が上演され、初回を拝見しました。この作品は映画『LISTENリッスン』共同監督の牧原依里さんが演出、雫境さんが舞台監督を担当し、「ろう者が聴者を演じる」という今までにありそうで無かった設定です。

 ろう者と聴者の世界を反転すると、そこに「声」や「身体」の差異が立ち現れますが、さらにその先に目を向けると「演じるとは何か」「それであることと、それっぽい事の違いとは何か」という哲学的な問いも生まれます。聴者がろう者を演じる際には躊躇なく拙い「手話」を使用しますが、ろう者が演じる聴者の「声」には違和感を持ってしまう。そこにマジョリティとは何かが突きつけられます。

 実際、この舞台を観ているろう者にとっては最初から「声」は必要なく、「声で話しているように見える」だけで十分なのです。ということは、この舞台はろう者と聴者をつなぐ「対話の種」でもあり、聴者自身が「聴者とは何か」を考える場でもある。プロジェクトの目的には「ろう者・聴者ともにアイデンティティ・関係性の再構築を試み、様々な芸術表現を包括できる場でありたい」とも記されています。舞台の感想は、ろう者と聴者の観客の割合でも違ってくるでしょう。実験的なワークインプログレスとしても面白い経験でした。

 

【書籍出版のお知らせ】そしてもうひとつ。今夜は雫境さんが2年をかけてまとめ上げた書籍《『LISTENリッスン』の彼方に》の出版記念イベントも開催されます。素晴らしい執筆陣に混ざって、ろう文化を何も知らなかった2016年公開当時の私と監督対談『リッスンとサウンドスケープ』、そして5年後のエッセイ『問う。』が掲載されています。監督ふたりとのオンガクをめぐる対話は現在も続いていますので、映画をご覧になった方もこれからの方もぜひご一読頂けたら幸いです。

 

○詳細は出版社リンクからどうぞ。