【時々更新】アート・コレクティブ「新井一座だより」(2023年度マグカル講座が始まりました)

イラスト:小日山拓也
イラスト:小日山拓也

 【境界に集う】

 9月6日に2023年度「カプカプと新井一座に学ぶ 舞台芸術と福祉をつなぐファシリテーター養成講座」(主催:センターフィールド・カンパニー、神奈川県マグカル助成事業)の対面第1回(A班)が無事に実施されました。昨年度から引き続きの方、はじめましての皆さんも交え、初回からカプカプの佳境「25周年記念カプカプ祭りの練習」の場を体験して頂きました。今回から新井さんの働き方が変ったり(※1)、日常生活のパートナーでもある板坂さんからメンバー小日山さんに介助の極意が伝授されたり(※2)、サポートする人・される人、障害のある人・ない人が混然一体となった新たな関係性が生まれ始めています。講座タイトルは「舞台芸術と福祉をつなぐ」ですが、実は「新井一座」も同時進行で「芸術と福祉」が絡み合っていく二重構造、非常に稀有なアート・コレクティブなのです。
 新井さんがALSを発症し、車椅子を使い始めてから早1年近くが経過しました。昨年秋、半年後も予測できずに始まった講座も、無事に今年度の第二期を迎えることができました。カプ―ズにとって新井さんの車椅子は身体の一部のように自然な存在です。何よりも彼らは肢体不自由や車椅子生活の先輩たちなので、今では新井さんがアドバイスを受けたり励まされたりする(時にはマウントとられてる(笑))。世界が反転する瞬間があちこちで生まれていますが、不思議と愉快な雰囲気は変わらない。固定しない柔らかな関係性は、誰もが安心して自分らしくいられる世界だと感じています。
 さらにそこに「アート/芸術」が加わると関係性が多様で豊かになります。踊り、音、絵、歌など普段の生活ではわからない才能が飛び出したり、何よりも理屈抜きでそれが「好き」というパワーに圧倒されたりする。この人すごい!という驚きがある。一緒に踊り、笑い合う時間の積み重ねのなかに、舞台芸術と福祉が響き合った調和の世界が生まれていきます。ちなみに筆者は8年間、一座のサウンドスケープを担当し、関係性が生まれやすい音環境を考えています。カプカプスタッフには心強い音響スタッフもいます。
 ちなみに今年の25周年カプカプ祭りは、先日のサントリーホール・サマフェス「ありえるかもしれないガムラン」を(勝手に)受けてのガムラン、ならぬカプラン祭りです。小日山特製の炊飯器ガムラン、同じく紙太鼓、カプカプが清水助成金で入手したハピドラム、海の音のシードラム、雨の音のレインスティックなどを使って、世界にひとつの「ありえるかもしれないガムラン」を壮大な物語とともに展開します。衣装はミロコマチコさんのワークショップで制作された布と仮面を板坂さんが着付け、ミロコさんが暮らす奄美大島の自然も届けられます。恒例のアサダワタルさんラジオも祭りの場を盛り上げていきます。祭りはこの3年間のコロナ禍でも中止されず、特別な熱量をもってカプカプの日常と非日常をつなげてきました。もはや親戚の法事のような、新しい舞台芸術のような祭りです。

 実はアートと福祉、ハレとケの境界はとても曖昧で、人生の段階によっても複雑に絡み合うと感じています。誰もが車椅子に向かって生きているとも言える。現場の「よりよくあるための創意工夫」が、たまたまアート(技術)になる。いちばん繊細なもの、小さなもの、弱いものに合わせて場づくり、音づくりをする。その弱さが突然、強さに変る瞬間がある。
 だからこそ、ある時は敢えてハレとケに境界線を引いて、あちらに飛び越えて、ハレの日を思い切り楽しむ。天国支部にいる仲間たちとつながる神様(カッパ)を祀る。物語が生まれる。カプカプーズやアーティストだけでなく、カプカプに関わる全ての人にとっての特別な一日なのでした。(

 

※1 新井さんは「東京都北区重度障害者等就労支援事業」の認定第1号となり、フリーランス&アーティスト活動の可能性を広げています。


撮影:ササマユウコ
撮影:ササマユウコ

※2【板ちゃんのワンポイント・アドバイス】

「私の介護技術は「新井さんの家族だからたまたまできた」のではなく、肢体不自由児の寄宿舎で経験した生活介護の技術、人間のからだや重さをどう捉えるかといった野口体操の身体哲学に支えられています。
 だから技術だけでなく、相手と共に作っていく身体感覚遊びのオモシロさもアート(今の新井さんの現状では)。これから小日山さんにもどんどん伝授していきますよ!」


撮影:ササマユウコ、カプカプスタッフ福田
撮影:ササマユウコ、カプカプスタッフ福田

【あらためまして、新井一座とは

2016年9月開催のカプカプ祭りで、スタッフ鈴木まほが命名。野口体操・美術・サウンドスケープ・コミュニティアートを専門領域とするコアメンバー(新井英夫、板坂記代子、ササマユウコ、小日山拓也)を中心に、カプカプーズやスタッフ、芝の家音あそび実験室、北千住だじゃれ音楽研究会、団地の人たちも巻き込みながら、カプカプ・ワークショップを展開している。 

 2023年現在はALSを罹患した新井の身体変化を想像力と創造性に変え、20世紀ダダや70年代フルクサスへのオマージュ、即興性や不確定性、ブリコラージュや実験精神を盛り込んだ後進育成講座も担いながら、新しいアート/アーティストの在り方を探る。
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