12月20日に、今年最後の「カプカプと新井一座に学ぶ 舞台芸術と福祉をつなぐファシリテーター養成講座」が実施されました。今回は受講者(B班の皆さん)が自らプランを練り、全体の構造柱となるような導入部、ルーティンワーク、クールダウン部のファシリテーションに挑戦して頂きました。カプカプーズとの関係性も回を重ねるごとに柔らかな雰囲気となり、始終笑いの絶えない時間となりました。新井一座が担当したメイン部分では、クリスマスから年明けの行事をリアルに駆け抜けるような季節感や時間の流れを意識した内容となりました。LEDキャンドルや影絵をつかって美しい「光と影」の世界を楽しみ、最後にはみんなで声を合わせながら「人間除夜の鐘」がつかれていきました。ALSを罹患している新井さんの身体は徐々に自由が利かなくなってはいますが、だからこそアーティストならではの想像力の可能性が最大限に発揮されていきます。この場は「講座」の形式をとってはいますが、この1年間、新井さんの身体変化に合わせて柔らかく変わっていくチーム体制やカプカプとの関係性を知っていただくことが、もしかしたら受講されている皆さんにとって最も発見があることだろうと、あらためて感じています。次回は2月の開催になりますし、ここからまた新井さん&板坂さんのケアや生活スタイルの在り方も次の段階にシフトいくはずだと思っています。だからこそ、アートとケアがうまく響き合いながら、まだ誰も経験したことのないような新しい世界が生まれていくだろうと希望も感じています。引き続き、ご注目ください。
「カプカプと新井一座に学ぶ 舞台芸術と福祉をつなぐファシリテーター養成講座」
(主催:センターフィールドカンパニー/神奈川県マグカル事業)
新井一座:新井英夫、板坂記代子、ササマユウコ、小日山拓也
翌21日には、第4回「ろう者のオンガクを頭と身体で考えるサロン」(エル・システマジャパン主催)@東京芸術劇場に伺いました。
8月に続く今回のサロンは「ろう者のみ」の回でした。音のない世界に確かに存在する「ろう者のオンガク」が哲学対話のように言語化されていくプロセスで、敢えて「ろう者だけ」の場を設けたのは、聴者とろう者が対等な対話を生む大切な土台作りと進行の牧原依里さんは語ります。「誰かの手が動くたびに手話なのかと意味を探してしまう」という彼らが、手話の動線の「どこから」オンガクが始まっていくのか、その質感や質量を科学的に検証できるかと、若い世代が活発に議論する様子が非常に興味深かったです。
今年は映画『LISTENリッスン』公開から七年が経ち、雫境さん編纂による書籍『LISTENリッスンの彼方に』も出版されました。急逝された米内山明宏さんが次世代に残した「手話詩」のアートの影響力もわかります。ろう者のオンガク対話が「普遍性の探究」の場としてここまで進化/深化するほど、月日が確実に流れたことも実感する年の瀬でした。
筆者:ササマユウコ(音楽家・芸術教育デザイン室CONNECT代表)
東日本大震災以降、「音楽・サウンドスケープ・社会福祉」の道筋をたどる実践研究をおこなっている。「聾CODA聴 対話の時間」(アートミーツケア学会青空委員会公募プロジェクト2017、2019)、地域作業所カプカプ×新井一座サウンドスケープ担当、サントリーホールサマーフェスティバル2023「ありえるかもしれないガムラン」ディレクション協力など。アートミーツケア学会理事、日本音楽即興学会、日本音楽教育学会