4月から新体制となった横浜・生活介護事業所カプカプ。毎年9月に行われる喫茶カプカプの26周年〈カプカプ祭り〉が今年も楽しく団地の商店街で開催されました。
このカプカプ祭りは単なる〈開店祝い〉ではなく、カプカプとそれまでワークショップに関わってきたアーティストたち(ミロコマチコ、アサダワタル、元新井一座)と共につくりあげるひとつのアートの時間とも言えます。今年は新体制が整うまでの短い準備期間ではありましたが、初めてアーティスト全員ミーティングも実現し、カプカプ祭り初体験の新所長石井さん、そしてこれまでのカプカプ祭りの遺伝子を受け継ぐスタッフ千葉さんを中心に、新しい職員さん、団地の皆さん、そしてカプ―ズと共に〈カプカプ第2章〉の船出を無事に祝うことが出来ました。
〈音楽・サウンドスケープ・社会福祉〉のまなざしから
早いもので筆者がカプカプ祭りに出会い(その熱量にびっくりして)、実際に新井英夫さんのワークショップに音で関わるようになって早10年目に入りました。これまでの祭りの歴史を振り返ると、毎年数か月かけて新しい音頭をつくり、ライブペインティングがあり、団地商店街を大胆に飾りつけ、ある年には急逝したメンバーがカミサマとなって弔われ、コロナ禍ではYoutube生配信をしたり・・・と、本当に盛沢山な先駆的〈アートプロジェクト〉だったと思います。そこには大袈裟ではなく、芸術や宗教や祭りの原初に立ち会うような瞬間が何度も生まれていました。あの熱量は何だったのか。当然、みんなの若さもありましたが(笑)、そこには何の利害関係も存在しなかったのも大きな理由です。ホンモノの表現の自由、障害のある/なしを越えた平等な関係性がありました。
10年の時間を経るなかでカプ―ズのみんなも驚くほど成長し、祭りの場そのものが彼らの手へと委ねられていきました。アーティストにとっても、カプ―ズの活躍は初心に戻るような体験でした。祭りと日常、ハレとケがつながり、祭りを軸にした1年を緩やかに過ごす〈新しいアートの時間〉に変容していくのがここからのカプカプ〈第2章〉なのかもしれません。
今回のカプカプ祭りの中心には、アサダワタルさんによる〈カプカプラジオ〉がありました。いつものワークショップの延長として、カプ―ズの好きな曲が流れたり、近況報告や〈推し活のすすめ〉があったり、メンバーがつくる新聞の紹介など、ひとりひとりにスポットが当てられていく。そのラジオを聴いている人、全然聞いていない人も含めて(笑)、団地の商店街に祭りの音風景が生まれていきました。
〈音楽・サウンドスケープ・社会福祉〉の場として
カプカプでは数年前に、清水建設の助成金を使ってカプ―ズにたくさんの楽器を購入して頂きました。特にこの写真の鍵盤(88種のサンプル音源内臓)がきてから、自分が出来ることも各段に増えましたし、ピアノがやっぱり自分の楽器なのだと自覚する機会にもなりました。この写真の時はカッコウの鳴き声をモチーフにして、場にミニマルな音環境を通奏しています。そこに先ほどのアサダラジオや新井さんのハモニカやカプ―ズの自由な演奏が乗っている。みんなでみんなの音をききながら、思い思いに音の関係性をつくっていく。この考え方はサウンドスケープ思想と関連した80年代の環境音楽、そしてアンビエントミュージックの思想も応用しています。ちなみにこの音環境が可能になっているのは、音響を専門に学んだカプカプ千葉さんのテクニックと知識が生かされているからです。この小さなピアノも商店街全体を包み込んでいました。
今回もうひとつ新体制となったのはアーティストたちの関わり方です。ALSを罹患して不確定な日々を生きる新井さん&板坂さん、それぞれ多忙を極めるミロコさん、アサダさん。今まではなかなか全員が横につながる機会が持てませんでしたが、新体制カプカプを応援したい!という気持ちから自然とつながっていきました。カプカプ所長さん、千葉さんを交えて、緩やかにアイデア交換をしていく中で、自分のできることで無理なく響き合っていくような〈カプカプ祭りの未来図〉がイメージできた気がします。また異分野アーティストのコレクティブとしても、今後のカプカプアートの時間には次世代へとつながる可能性も感じています。今回は残念ながら不参加でしたが、今後はコーヒー豆(小日山拓也さん&若鍋久美子さん)の藝大ユニットも加わっていきます。
しかしそうは言っても、まず忘れてならないのは〈カプカプは誰のための場なのか〉。そして〈カプカプ祭りとは何か〉。そこが〈福祉/ケアの場〉であるということでしょうか。アーティストはそのことを、常に問い続けていく必要があると思っています。何よりも現場で働くカプ―ズ、そしてスタッフさんの意見をききながら、〈アートの原初〉に立ち返るような生き生きした時間が生まれることを願っています。
〈カプカプ〉はアートが日常の中に、そしてケアの中に自然に息づいている素敵な場です。25年間の〈第1章〉の蓄積があったからこその〈第2章〉。カプーズの底力を実感するひとときでもありました。まさに継続は力なり。
筆者:ササマユウコ(芸術教育デザイン室CONNECT代表・音楽家)
1964年東京生れ。3.11を機に〈音楽、サウンドスケープ、社会福祉〉の実践と研究。アートミーツケア学会理事、日本音楽即興学会奨励賞2023。2015~2023まで新井一座で音担当。