【空耳図書館きのこの時間③】
実施 2020.10.14@明治神宮の杜
テーマ「内と外をきく」
推薦図書『きのこのなぐさめ』ロン・リット・ウーン 枇谷玲子、中村冬美訳 みすず書房2019
参考図書『まつたけ〜不確定な時代を生きる術』アナ・チン 赤嶺淳訳 みすず書房2019
明治神宮で開催中の野外彫刻展を道標に外苑→内苑を歩く音楽×美術×哲学散歩「きのこの時間③」を実施しました。今回は「コロナ時代の新しい'音楽のかたち’を思考実験する」プロジェクトの一環です。昨年と変わらずに(しかし変幻自在に)存在するきのこたちの生命力に触れながら、コロナ禍の日々を振り返り、推薦図書を頼りに音楽や芸術の課題や展望にも想いを馳せていきました。
天候は暑からず寒からず、絶好のきのこ日和。参加者の検温や感染予防対策、ソーシャル・ディスタンスも意識しながらになりますが、野外ならではのリラックスした雰囲気の時間となりました。柔らかな時間の質感は身体感覚を重視した活動には大切な要素です。何より参加者同士で気配りが行き届く少人数ならではの深まり方があったと思います(これは数年前に弘前大今田研究室が示唆していた「小さな音楽」論にも通じます)。
きのこの他にも印象的だったのは、ちょうど参拝客の「願い事」が書かれた沢山の風鈴たちが参道に飾られ始めていたことです。疫病退散、世界平和から個人の幸福まで、祈りと芸術がひとつになった100年めの都会の杜の音風景。今は観光客の姿がほとんど消えていますが、沈黙している訳ではなく杜で働く人たちや生きものたちが活動する音、さらに上空や周辺の環境音(ヘリコプターや原宿駅構内)が浮き立ち、思いのほか賑やかなサウンドスケープでした。人工の杜は人々が絶えず手を入れることで健やかな命を繋いでいく。「持続可能な仕事」にはエコロジカルな視点が欠かせませんし、音響生態学としてのサウンドスケープはその指標にもなり得ます。
昨年の開催は7月でしたので、肝心のきのこの風景は今回まったく違うものでした。おそらく数日でこの風景も変わってしまうので、きのことの出会いは本当に一期一会だと思います。しかも彼らに出会うためには森に足を運び、何より探さなくてはなりません。案内人にも出会える保証はない。しかしそこにあるのは半ば根拠のない「希望」や「期待」であり、探すために歩くことは何ともポジティブな行為です。不思議なほど何時間でも歩けてしまう。そのアドレナリンの出方は「路上観察」にも通じます。歩きながら音をきいたり話をしたり、何より探しものをしながら、世界に全感覚をひらいていく。誰からも否定されることの無い自由意志。自己と他者が立場や世代を越えて、理屈や利害関係抜きで成立する芸術活動。その緩やかなつながり方や関係性こそ、まさに菌で繋がるきのこのようです。
詰まるところ「きのこの時間」とは、自分の身体を通して手に入れる「魔法の時間」です。その証拠に魔法が解けたら足が棒になっているのでした。
きのこの時間③ 「内と外をきく」
きのこ案内 小日山拓也
空耳図書館ディレクター ササマユウコ
主催 芸術教育デザイン室CONNECT /コネクト
(文化庁活動継続支援事業)
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