アートミーツケア学会2020オンラインに登壇しました。

 多様なフリンジ企画、エクスカーションとともに先週末11月21日(土)、22日(日)にオンラインで開催されたアートミーツケア学会オンラインに、コネクト代表ササマユウコが登壇しました。この学会では聾CODA聴プロジェクトに対して、2017年、2019年度の公募助成を頂いています。

 登壇したプログラムは先日サントリー学芸賞を受賞された美学者・伊藤亜紗さん(東京工業大学リベラルアーツ研究教育院准教授)をゲストに迎えた九州大学大学院芸術高額研究院(中村美亜、長津結一郎)主催の『with コロナトーク』でした。基調講演にあたる伊藤さんのお話は近著『手の倫理』を拝読したばかりで期待通り示唆に富んだものでしたし、オンラインの身体性や感覚の意味を捉え直す機会にもなりました。

 後半の発表では、3月の緊急事態宣言、コロナ自粛下で始まった横浜の福祉作業所カプカプ(新井英夫&板坂記代子さんの身体ワークショップ)に5年間音から関わる自身の視点から、9月のカプカプ祭りオンラインを迎えるまでの半年間の試行錯誤をお伝えしました。ちなみに伊藤さんは昨年のカプカプ祭りに足を運ばれていたので、私自身の今年の特殊な体験を的確に言葉にして頂けたようにも思います。そして、あらためて他者の視点から振り返ることで自分が『何を』体験したのかが明確になることを実感しました。団地の壁に投影されたり、芝の家音あそび実験室(コヒロコタロウ)と共にオンラインで祭りに音をつけたりと、アーティストとしても実験的&先駆的な経験だったのです。

団地のピロティの壁に投影されている自分(カプカプ写真提供)
団地のピロティの壁に投影されている自分(カプカプ写真提供)

 不安の中で進んできたコロナ時代に変わったことは『進化』であり、変わらなかったことは『真実』なのだと今は思います。スタッフの皆さんとの月一会議、迷いながらも信頼をぶらさず進めていけた関係性はコロナ以前から築かれたものであり、緊急事態にこそ真価を発揮すると思います。アートや祭りは人間や社会が厳しい時を生き抜く知恵として『手放さなかったたからもの』。福祉は『最後の砦』として、変わらずそこにあり続けます。信念を貫くには『リスク』も伴いますし、そのリスクを引き受ける覚悟も必要とされる。人間の尊さについて考える時間がたくさんありました。
 よくカプカプ所長の鈴木励慈さんは『うちはアート系ではないです』とおっしゃっていますが、それはアートをつくることを目的にしている場ではなく、結果的に『アートがはじまる場』であろうとする意志表明として受け止めています。今年は『神様』も生まれました。伊藤亜紗さんが前段で『アナーキズム』というキーワードを出され、これぞまさにカプカプを表す一言だなと思いました。オンラインで『一歩飛び出した』カプカプの事例が、どこかの誰かのヒントになればいいなと思いました。
 今回のオンライン学会では日本国内に限らず、アジア諸国(台湾、カンボジア、ミャンマー、タイ)の実践者もライブでつながる大変実りの多い場でした。多言語&通訳の入る場面ではまだ試験段階ですが、UDトークによる『情報保障』も始まりましたので、是非今後も注目して頂ければと思いました。研究者と実践者/当事者がフラットにつながることが出来る貴重な学会だと思います。さらに『サウンドスケープ』哲学の提唱者/M.シェーファーは著書『世界の調律』(平凡社)の中で、40年以上も前に『社会福祉』につながることを示唆しています。

〇カプカプ祭りの様子が11月20日発売の『コトノネ』に掲載されています。


執筆:ササマユウコ/音楽家、コネクト代表

2011年の東日本大震災を機に、サウンドスケープを『耳の哲学』と捉え直して社会の内と外を思考実験しています。空耳図書館ディレクター、即興カフェ主宰、執筆活動等。