【空耳図書館コレクティブ】プロダクションノート/参加メンバー

 突然はじまったコロナ時代、東日本大震災から10年の節目になる空耳図書館のはるやすみ2021では、岩手県出身の宮沢賢治が生前唯一残した詩集『春と修羅』の「序」を取り上げた。この詩は難解と言われるが、読むには少しコツがあるのだと思う。なぜなら「序章」とは言え、本編「春と修羅」を書いた日からの約2年(22ヵ月)を「過去」と振り返った「あとがき」でもあるからだ。謎めいた言葉は、すでに書かれた詩のあちこちに散りばめられた”お気に入りのフレーズ”なのかもしれない。それらを直感的に再編集した”言葉の音楽”ともいえる。「わたくしといふ現象は」と自らを突き放す宮沢賢治。ここまでの22ヵ月に最愛の妹をスペイン風邪で亡くし、憧れの東京は関東大震災で焼失している。この厳しい現実の中で詩が書けなくなるほどの喪失感を体験し、やっと抜け出した先にこの言葉が生まれたのだ。それは20代後半のひとりの青年の青春の終わりだったともいえる。100年前の賢治の青い心象は、先が見えないコロナ時代を生きる今の私たちにも深く響鳴する。

 「ちょっと不思議な読書会 空耳図書館のはるやすみ」はもともと2015年の春に、子どもゆめ基金助成事業・読書活動としてスタートした(講師:aotenjo/外山晴菜、橋本知久)。その後、青年団の山内健司ひとり人形芝居『舌切り雀』哲学対話型鑑賞会、芝の家・音あそび実験室主宰のコヒロコタロウとの「おんがくしつ」等、さまざまなアーティストを巻き込んで春分や冬至など暦と連動しながら、本や絵本を切り口にした「芸術への扉」をつくってきた。
 2021年は緊急事態宣言発令とも重なってリアル開催は難しいと判断し、代表ササマユウコ個人申請の文化庁文化芸術活動の活動継続支援事業(音楽分野)の一環で、対象を子どもに限らず映像で発信した。撮影は2020年夏の東京アートにエールを!「空耳散歩」同様、古いiPhone一台で「記録」(”記録”は序の中のキーワードのひとつでもある)。実際に都内公園は緊急事態宣言で「撮影」は禁止、ただし少人数の野外活動をiPhoneで「記録」する程度ならOKという状態だった。「音楽作品」としてまず音の構成を考え、撮影当日はMovement担当の新井英夫が即興的に生み出した動きの断片を記録し、最終的に音/朗読に合わせて断片を再編集するかたちをとっている。その手法は映像ロジックではなく、サウンドスケープ・デザイン、もしくは賢治が詩集から言葉を拾い集めて「序」をつくった方法に似ているかもしれない。
 世界観をきめる存在感のある仮面は、前述の「空耳散歩」でも走馬燈を制作した小日山拓也が、賢治の肖像写真から着想を得て木型を彫るところから制作している。また朗読には東京藝大院生の石橋鼓太郎がZOOM特有の心許ないクロマキー的輪郭の身体(現象)と共に、コロナ時代の視覚的記録として参加している。板坂記代子は衣装を越えた「布」、三宅博子には賢治の物語を読み解くヒントと音声で参加。この映像からライブ版への切り口を探っていく。
 ちなみに演奏している太鼓は、賢治の詩「原体剣舞連」に登場するDah Dah Dah Dah DA sko Dah Dahのフレーズ、鹿踊り、そして岩手から太平洋を渡ったナバホ族のネイティブ・アメリカン太鼓、さらには歌舞伎のお囃子「序」を織り交ぜ円型図系譜で作曲後、ササマがひとりで6人分を演奏している。クッキー缶等も使っている。

 コレクティブなアート活動はお互いの我がぶつかり難しいと言われているが、今回それぞれが自分の専門性を生かしながら、社会的キャリアや分野を越えて参加できたのは、ベースに横浜の福祉作業所カプカプ、芝の家に参加する「祭り仲間」であるという意識が大きい。今回の制作現場もどこか「祭り」のようであった。賢治も最期まで好きだったという「祭り」の力にも思いを馳せる時間となった。

 さらに2021年度はこの「空耳図書館コレクティブ」をひとつの「団体」として、さらなる展開を計画している。

【写真左から】新井英夫、ササマユウコ、三宅博子、石橋鼓太郎、板坂記代子、小日山拓也
【写真左から】新井英夫、ササマユウコ、三宅博子、石橋鼓太郎、板坂記代子、小日山拓也

【空耳図書館コレクティブ参加メンバー紹介/50音順】

新井英夫(Movement)

 1966年生まれ。体奏家/ダンス・アーティスト。マチと双方向に関わる実験演劇活動、劇団主宰を経て、独学でダンスへ。国内外での公演多数。2011年以降は特に野口体操をベースにした身体ワークショップ「ほぐす・つながる・つくる」を、全国の福祉、教育、コミュニティで展開中。国立音楽大学、立教大学非常勤講師。Dance-Labo KARADAKARA代表。

石橋鼓太郎(Reading)

 1993年生まれ。音楽とアートマネジメントの研究者。自らも演奏とアートマネジメントに関わりながら、「千住だじゃれ音楽祭」を中心とした市民参加型の実験音楽・即興音楽を実践的に研究し、音楽とは何かを問う。芝の家・音あそび実験室メンバー(コヒロコタロウ)。東京藝術大学大学院国際芸術創造研究科博士後期課程在学中。

板坂記代子(Textile)

 1979年生まれ。身体と造形の表現者。近代工業化以前の糸紡ぎ・染色などの”手仕事”と”感覚あそび”との”あわい”を探究すべく「てきとう工房」を立ち上げ、脱目的的かつ即興的ものづくりの活動を展開中。山形大学教育学部美術専攻卒。Dance-Labo KARADAKARAメンバー。

 

小日山拓也(Mask) 

 1973年生まれ。美術家/音楽家。手作り楽器ワークショップ、野外影絵演劇、「千住の1010人」、インドネシア民族音楽リサーチなど、主にフィールドから音楽と美術の領域を横断するアーティスト。芝の家・音あそび実験室メンバー(コヒロコタロウ)、空耳図書館「きのこの時間」案内人。東京藝術大学美術学部絵画科油絵専攻卒。

 

ササマユウコ(Soundscape Design)

 1964年 音楽家。3.11を機にサウンドスケープを「耳の哲学」として音楽のウチとソトを思考実験する。即興カフェ、聾CODA聴の対話、映像作品、ワークショップ等で「音楽とは何か」を問い続けている。芸術教育デザイン室CONNECT/コネクト代表。2000年代Yuko Sasamaの作品はN.Y.より72ヵ国で配信中。

 

三宅博子(Voice)

 1973年生まれ。音楽療法士。音楽療法、コミュニティ音楽、音楽即興の領域を行き来しながら、国立音楽大学にて次世代育成にも力を注ぐ。大阪音楽大学クラリネット専攻を卒業後、ケアワーカーとして働く中で音楽療法士となり、神戸大学大学院総合人間科学研究科博士後期課程修了(学術博士)。芝の家・音あそび実験室主宰(コヒロコタロウ)。

 

空耳図書館コレクティブ 映像ディレクター/ササマユウコ


〇本編(7分23秒 文字あり完全版)

※All Rights is reserved.
この映像は『コロナ時代の”新しい音楽のかたち"を思考実験する②空耳図書館の活動を中心に』(文化庁文化芸術活動の継続支援事業/ササマユウコの音楽活動)の助成で制作されました。すべての映像の著作権は芸術教育デザイン室CONNECT/コネクトに帰属します。

〇お問合せ tegami.connect@gmail.com(ササマ)
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