NOTE『サウンドスケープとは何か〜シェーファーの耳と目から考える』
8月に亡くなった「サウンドスケープ」提唱者でカナダの作曲家R.M.シェーファー追悼として、今年最後にこの記事を再掲します。21世紀生まれ、大学2年生の我が子に語るつもりで書きました。個人の音楽人生にも大きく影響した氏の主著『The Tuning of The World 邦題:世界の調律』を中心に、氏の生まれながらの視覚障害、知覚から紐解いています。86年の国内版はしばらく絶版でしたが、先人たちのご尽力で来月1月に再版が決定しています。
視覚と聴覚を融合した21世紀のYoutube世代にとって、シェーファーがなぜこれほどまでに聴覚にこだわったのか。氏の個人的かつ時代的背景を知ると、オーディズムとは対極の動機で書かれたことが理解できます。著書の中ではサウンドスケープが「社会福祉」とつながることも示唆され、氏のエデュケーションには視覚障害者との対話や、想像力を養う「きこえない音をきく」課題も含まれています。この10年間の自身の実践考察も踏まえて、サウンドスケープと知覚、社会福祉の関係性は今後も「響き合う世界」をテーマに光を当てていきます。
またシェーファーの海外の訃報記事には必ず「作曲家、作家、音環境の活動家」の順で3つの肩書きが併記されていたように、まずは世界的な現代音楽家として評価されていた芸術家としてのクリエイティビティやユーモアも大切にしたいと思います。画家を目指していたシェーファーが視覚を聴覚にシフトさせて描いた世界、全身の知覚を使った芸術のアプローチ方法にも実践的に迫っていけたらと思います。
音楽とは何か、何がオンガクか。一生尽きることのない問いの道標として、水から生まれた『世界の調律』は矛盾を孕んだ音楽として、ここから先も時代と共に美しい旋律を残していくでしょう。未読の方はぜひ再版でシェーファーと訳者たちの熱量に触れてみてください。
Sonic Universe!(邦訳:鳴り響く森羅万象に耳を開け!)
2021年もありがとうございました。来年もどうぞよろしくお願いいたします。
芸術教育デザイン室CONNECT/コネクト代表:ササマユウコ(音楽家)
1964年東京生まれ。3歳よりピアノを始め、10歳より楽典を学ぶ。大学在学中に欧州8ヵ国の芸術文化拠点を巡る。2011年東日本大震災を機にサウンドスケープの概念を『耳の哲学』と捉え直し、自治体市民大学、異世代アーティスト、研究者、哲学者と共に思考実験や対話の時間をつくっている。2000年代のYukoSasama名義の作品はN.Y.
The Orchard社より72ヵ国で配信中。上智大学文学部教育学科(教育哲学、視聴覚教育)、弘前大学大学院今田匡彦研究室(サウンドスケープ哲学、サウンド・エデュケーション2011~2013)、町田市教育委員会生涯学習部まちだ市民大学(2011~2014)、所属:日本音楽教育学会、日本音楽即興学会、アートミーツケア学会
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