コロナ禍の最中だった2021年9月に登壇した第2回東京芸術劇場社会共生セミナー『ろう者のオンガク~もし世界中の人がろう者だったらどんな形のオンガクが生まれていた?』(現代音楽フェス・ボンクリ関連企画/オンライン開催/講師:雫境、牧原依里、ササマユウコ)の抄録がやっと公開されました。
2016年の映画『LISTENリッスン』公開時の対談以来、監督たちとの5年間におよぶ対話を拡大したような充実の3時間でした。多くのろう者を含む150名のお申込みがあったと記憶しています。本編は手話通訳付きの和やかな雰囲気でしたが、抄録はお堅い公文書につき文語体に《翻訳》され、内容だけの記録になりますのであらかじめご了承ください。
現在開催中の東京都現代美術館のテーマにもつながりますが、日本手話で話された言葉が文字になるまでには、手話通訳者の日本語音声→(自動)文字起こし→ろう者本人による校正・翻訳(口語)→音声話者による校正→公文書用文語へと何度も《翻訳》されます。その中ではカットされた細かなニュアンスも多いです。
手話に限らず通訳者は、流れる時間の中で瞬時に音声日本語に変換することが最重要ですので、中には手話の《直訳》も出てきます。その音声をそのまま文字に残すことは、話者のキャラクターまで伝わらず、そこからさらに《翻訳》するひと手間が欠かせない。ということを、私もこの作業を通して知りました。
オンライン時の和やかな空気感までは記録されていませんが、ろう者のオンガクを考える一助となれば幸いです。この対話のあと、おふたりはボンクリにてろう者のオンガク作品《音のないオンガクの部屋》を発表しています。考察はこちら→
〇抄録PDF
https://www.geigeki.jp/wp-content/uploads/2024/04/20210918.pdf
〇こちらは当日の質問に後日お応えした記事です。どうぞ併せてご覧ください。
執筆:ササマユウコ(関係性の音楽家、芸術教育デザイン室CONNECT代表)
1964年東京生まれ。2000年代の作曲・演奏活動を経て、2011年の東日本大震災をきっかけに《音楽、サウンドスケープ、社会福祉》を軸に自らを編み直す。アートミーツケア学会理事、2024年日本音楽即興学会奨励賞『関係性の音楽/リレーショナル・ミュージックとは何か』,カプカプ新井一座など。