〇誤って冒頭記事を削除してしまいました。申し訳ございません。
第1回 オンライン公開ミーティング
登壇:鈴木励滋、鈴木まほ、新井英夫、板坂記代子、ササマユウコ、小日山拓也
前半では演劇批評もされる励滋さんが「福祉現場では演劇のワークショップが少ない」と紹介されていましたが、演劇は基本的に「コトバの芸術」であり、その現場には入念な稽古やプロセス、何よりも共通の「コトバ」を必要とするので、非言語コミュニケーションが得意な即興音楽や美術やダンスよりも「場」へのハードルが上がってしまうのは仕方のないことかもしれません。
例えばカプカプ・メンバーにはその世界の「コトバ」が存在する。逆に言えば「コトバ」とは何かを問い、その在り方を変えていくことで全く新しい演劇やワークショップが生まれていく可能性も十分にあります。現にカプカプでは新井さんの自由な「コトバ」を媒体にした場も多々生まれていきます。
ところで、FB等でご存知の方も多いと思いますが体奏家・新井英夫さんは現在、運動障害の進行性難病を発症しています。今年のカプカプ新井一座の場づくりでは、病で変化していく新井さんの身体時間と響き合っていくように新たな関係性も生まれ始めています。何より身体の不自由に反比例して、表現の自由度はどんどん上がっていくのです。車椅子や杖といった福祉用具は、日常的に使い慣れているメンバーから学ぶことも沢山あります。本当に自然に、当たり前に新井さんの車椅子を押してくれるメンバーがいます。サポートしてくれる人もいます。いわゆる「障害」のある/ない場の境界がいよいよ曖昧になり、誰が誰のためにある場なのかわからなくなる(笑)。その目的や方法論もどんどん双方向的に有機的に「まぜこぜ」になっています。新井さんの病がきっかけではありましたが、本当は世界中の誰もが辿っている身体時間を新井さんを通して思い出している体験だと感じています。だからこそ今までに新井さんとカプカプが積み重ねてきた10年の時間の重み、関係性の厚みが生きてきますし、根本にある場の雰囲気やワークショップの内容も変わらないのだと思います。本質が揺らがない、というか。私自身にとっても高齢になった両親や未来の自分の姿がこの時間と重なります。人は誰ひとり例外なく、身体の不自由に向かって生きているのだと実感します。
だからこそ常に強く立派であろうとするよりも、カプカプでは弱く不自由になっていく時間を当たり前に受け入れたいと思います。右肩上がりやアンチエイジングといった強者の論理や価値観の転換から、社会が柔らかく変わっていくといいなと思うのです。それは誰にとっても生きやすい時間だと感じるからです。カプカプで生まれた「新井一座」がいろいろな場所に、いろいろな人たちの間で生まれていくことを願っています。もちろん新井英夫さんの周囲にも、水紋のように様々な座組が生まれていったら素敵だなと思います。3月まで新井一座、どうぞよろしくお願いします(ササマユウコ記)
●次回11月10日、第2回カプカプ現場(団地のピロティ編)へと続きます。
●今回の「カプカプ新井一座」座組
座長:新井英夫
自然に沿い「力を抜く」身体メソッド『野口体操』を創始者・野口三千三氏に学び、深い影響を受ける。演劇活動を経て1997年よりダンスへ。国内外での舞台活動と共に、日本各地の小・中学校、公共ホール、福祉施設等で「ほぐす・つながる・つくる」からだのワークショップを展開中。近年は音楽家らと「親子で楽しめるパフォーマンス作品」の上演を積極的に手がけている。(一財)地域創造ダン活支援事業登録アーティスト。国立音大非常勤講師等。NPO法人JCDN(ジャパンコンテンポラリーダンスネットワーク)理事。
身体表現・造形/板坂記代子
原初的な手仕事の中にある「感覚遊び」や「偶然的要素」に着目した造形ワークショップを各地で展開すると共に、モノとの関わりから生まれる身体表現を探求している。
2012~現在 地域作業所「カプカプ光が丘」(横浜市)にてダンスワークショップファシリテーター新井一座として参加(新井英夫パートナーとして、現在に至る)。山形大学教育学部小学校教員養成課程 絵画研究室研究生修了。
サウンドスケープ・即興/ササマユウコ
音楽家。2000年代までの創作活動を経て、東日本大震災を機にカナダの作曲家R.M.シェーファーが提示した「音楽、サウンドスケープ、社会福祉」の実践研究を展開。カプカプ新井一座へは偶然の必然で2015年より参加。異分野アーティスト、研究者と共に次世代向け思考実験の場づくり・芸術教育デザイン室CONNECT代表。「聾CODA聴 対話の時間」、「空耳図書館」、「即興カフェ」等。アートミーツケア学会、日本音楽即興学会、日本音楽教育学会。東京芸術劇場社会共生セミナー講師など。
手作り楽器・造形・即興/小日山拓也 ※29日は欠席です
美術と音楽をつなぐ手作り楽器、即興演奏、影絵上演、国内外でのリサーチアート、足立区、港区「芝の家」を拠点とするコミュニティ・ミュージック、ワークショップ活動などを積極的に展開している。芝の家『音あそび実験室』、NPO法人音まち計画理事、文化庁文化芸術活動の継続支援事業『Kohiyama Takuya works』全4冊および英訳版(抜粋)制作。東京藝術大学油画専攻卒。
注
※「新井一座」は場によって座組が変ります。今回のメンバーはカプカプのコアメンバー(新井、板坂、ササマ)に小日山拓也がサポートメンバーとして参加しています。
新井一座/アート・コレクティブ
2016年9月開催のカプカプ祭りで、スタッフ鈴木まほが命名したアート・コレクティブ。野口体操・美術・サウンドスケープ・コミュニティアートを専門領域とするコアメンバー(新井英夫、板坂記代子、ササマユウコ、小日山拓也)を中心に、カプカプーズやスタッフ、芝の家音あそび実験室、北千住だじゃれ研究会、団地の人たちも巻き込みながら、カプカプ・ワークショップを展開している。
2023年現在は、ALSを罹患する新井の身体変化を想像力と創造性に変え、20世紀ダダや70年代フルクサスへのオマージュ、即興性や不確定性、ブリコラージュや実験精神を盛り込んだ後進育成講座も担う。