カテゴリ:コネクト通信1月号



2021/01/04
 本年もどうぞよろしくお願いいたします。コロナ一色の2021年がスタートしましたが、まもなく2011年の東日本大震災・原発事故からも10年が経ちます。まだ昨日のことのような3.11を機に、カナダの作曲家M.シェーファーが半世紀前に提唱したサウンドスケープを「耳の哲学」として、今日まで音楽の内と外を思考実験してきました。震災当時、社会を一瞬にして包み込んでしまった「想定外」や「絆」という”言葉の力”に、音楽家として何とも言えぬ危機感を抱いたからです。世界は言葉でできている。そして言葉は非言語の世界をいとも簡単に飲み込んでしまう。それまで言葉には無頓着だった自身の無知を猛省し、ここから「音楽とは何か?」という永遠の問いと向き合う時間がはじまりました。  震災当時は小さな子どもの親として、目に見えなくとも確実に降り注いでいる放射能の問題に、常に「未来」の選択を迫られる緊張感の連続でした。食べてもいいのか?飲んでもいいのか?なぜ鼻血が出るのか?そしてこの切羽詰まった状況の中でもなぜ人間は音を放つのか、ピアノを奏でるのか?子どもの頃から当たり前にしてきたことの理由がすっかり見えなくなってしまったのです。  偶然、ある人が自治体市民大学の仕事を辞めて家族で九州に避難し、都会から郊外に移り住んだ私が後任に就くことになりました。30年以上も続く社会教育としての市民大学には福祉学、環境学、法学、国際学など、大学の授業さながらの講座が揃い、自分にとっては専門外の講座を企画するうちに視野は音楽の「外」へと大きく広がっていきました。まさにサウンドスケープのように世界が鳴り響き、同年秋から弘前大学大学院今田研究室でサウンドスケープ/サウンド・エデュケーションの研究、そして言葉×音の思考実験を始めました。  行政の枠からもっと自由度の高い実践の拠点を探し始めた頃、相模原市が市民・大学交流センターを立ち上げ、弘前大学に籍を置きながらここにコネクトを設立する流れとなりました。そこからの6年間の日々はコネクト通信等をご覧いただくとして、まるで何かに導かれるように飛躍的に活動のネットワークが広がっていきました。  思考実験そのものを「芸術活動」に、弘前大学の今田匡彦先生にはサウンドスケープを、母校である上智大学グローバルコンサーン研究所の寺田俊郎先生には哲学を、桜美林大学講師の青年団山内健司さん、鈴木健介さん、女子美術大学の講師でコネクト・レジデンスでもあった沼下桂子さん、また学会関係では全国の大学ともつながっていきます。空耳図書館からはアーティストユニットaotenjo(外山晴菜、橋本知久)さん、Koki ogmaさん、アトリエアルケミストの羽田先生、芝の家音あそび実験室のコヒロコタロウさん、きのこの時間案内人・小日山拓也さん、即興カフェ・鈴木モモさん、聾CODA聴・雫境さん、米内山陽子さん、牧原依里さんにもお力を借りました。2021年春には満を持して5年間カプカプでご一緒している新井英夫さん&板坂記代子さんにも空耳図書館にご登場いただきます。  しかし何といっても文字通りの「想定外」だったのが2020年です。昨年1年、私は2011年以来ひさしぶりに個人アーティスト・ササマユウコに戻り、かつての音楽活動(CD製作やコンサート活動)のノウハウを思い出しながら過去の作品にも助けられ、映像製作やオンライン活動を展開していました(現在もです)。最初はオンラインには懐疑的でしたが、与えられた場を引き受けているうちに自分のやりたいことと相性が悪くないことにも気づきました。今後もさまざまな可能性を感じています。  2011年当時10歳だった娘は現在大学1年生、今年20歳になります。入学式もないまま、オンラインで日々の学生生活を模索する様子を傍らで観ていると、コネクトの活動内容も新しい「かたち」にシフトする必要があると感じます。また一方で小回りのきく個人アーティストは、社会的には弱者ですがこの混沌の時代には自由でもあると感じています。自分にとって2020年に変わったことは進化、変わらなかったことは真実に他なりません。  新しい芸術教育とは何か。それは「音楽とは何か」を問う延長に他なりません。2011年からの続きに2021年も存在しています。  以下は、2020年の実績報告です。オンライン企画やレクチャーのご相談・お問合せ等はどうぞお気軽にメールを頂けたら幸いです。 ササマユウコの個人サイトも合わせてご覧ください。引き続き、どうぞよろしくお願いいたします。
2020/01/28
実施日時:2019年12月27日(金)14時~17時 会場:アーツ千代田3331 対話人数(メンバー含む):14名(満席) 内訳:聾者4名、中途失聴2名、聴者7名 CODA 1名) ※当日キャンセル(聾・聴各1名) メンバー:雫境(聾、身体)、米内山陽子(CODA、手話)、ササマユウコ(聴、サウンドスケープ) 写真協力:外崎純恵(弘前大学大学院)...
2020/01/10
暮れに開催した『対話の時間』の記録を眺めています。当日の対話者は手話、音声、筆談(文字)を交えながらの13名(聾/難聴6名、聴者6名、CODA1名)。筆談方法は2種類用意しました。個人の「つぶやき」は手持ちのホワイトボードに、共有したいテーマや感想は2畳ほどのテーブルに敷き詰めた紙にカラーペンで自由に書きます。...
2020/01/06
新年早々、世界のサウンドスケープは騒々しい。人の分断は「境界」を意識した瞬間から始まったのかもしれません。...
2019/01/12
コネクト・レジデンス沼下桂子さんの企画による版画展@植物園カフェのご案内です。沼下さんは現在、上野の森新文化構想のスタッフ、女子美術大学版画研究室では後進指導にも携わっています。植物園カフェはその女子美術大学の目の前にあり、新しい福祉の在り方を提案するコミュニティ・カフェです。 是非お出かけください! Practical case interviews #03...
2018/02/16
◎こちらは満席となりました。ご応募ありがとうございました。  協働プロジェクト「聾/聴の境界をきく~言語・非言語対話の可能性」(助成:アートミーツケア学会)の第2回境界リサーチ「カラダ|音|コトバ~舞踏・サウンドスケープ・演劇の視点から」が、3月21日(水・春分の日)に開催されます。...
2016/01/23
〇東京迂回路研究とは・・社会における人々の「多様性」と「境界」に関する諸問題に対し、調査・研究・対話を通じて、‘生き抜くための技法’としての「迂回路」を探求するプロジェクト。特定非営利活動法人「多様性と境界に関する対話と表現の研究所」によって運営されています(配布資料より抜粋)。...
2015/02/14
町田市の青少年施設「ひなた村」で開催された町田市レクリエーション連盟主催「町レクのつどい」特別プログラムとして、コネクト代表のササマユウコが講師を務め、参加者の皆さんにサウンド・エデュケーション(音のワークショップ)を体験して頂きました。「ひなた村」の名前の通りお天気にも恵まれた、穏やかで気持ちの良いワークショップ日和でした。...
2015/02/04
 今日は「立春」です。太陰太陽歴の24節気は季節の変わり目という宇宙のリズムを知る暦。同時に、人間の体内にも宇宙と同じリズムが刻まれ「内なる音楽」が流れていることに気づくきっかけも与えてくれます。...
2015/01/14
芸術教育の実践者/研究者の勉強会を兼ねた不定期スピンオフ企画CONNECT+(コネクトプラス)。今回は代表のササマユウコが主催となり「音楽×やさしい哲学カフェ」第1弾として弘前大学の今田匡彦教授をお迎えした「音さがしの世界~M.シェーファーとサウンドスケープ」を開催しました。【協力/鈴木モモ(minacha-yam主宰、ストリングラフィ、つむぎね演奏家)、浦畠晶子(音楽家)、村松純子(BABY in ME主宰)】。  今田氏は国立音大卒業後、出版社勤務を経て、サイモン・フレイザー大学、ブリティッシュ・コロンビア大学で学んだ1964年生まれの哲学博士。日本の子供向けのサウンド・エデュケーションのテキスト『音さがしの本~リトル・サウンド・エデュケーション』(春秋社 増補版2009)をM.シェーファーと共に出版されています。弘前の今田ゼミでは、学生たちの自由闊達な意見交換の中で音楽の哲思的思考が深められ、音楽教育の現場や研究者たちにとっても常に新しい風となっています。今回はゼミの雰囲気を少しでも再現できればと、日本橋のモロッコ食堂DALIAさんにご協力を頂き、音楽的な「哲学カフェ」空間が実現しました。当日は活躍中の若手音楽家を中心に、美術や建築や教育など様々な分野から20名の方が集まりました。  前半では「そもそも哲学とは何か」をお話から考え、後半は参加者も一緒に身体を使いながら、弘前のユニークな授業活動がDVD動画と共に紹介されました。レクチャーの後は和やかな歓談の場となり、先生との対話も含め、分野を越えた参加者同志も活発な意見交換や交流の場となりました。言葉を越えて存在する音楽を考え、そしてあらためて自分の身体を捉え返す。そもそも音楽とは何か、何が音楽か。特に若い世代にとっては、常に真摯に問いかけながら芸術や教育と向き合うことの大切さをあらためて意識する機会となったようです。