2021年が始まりました。

2021年空耳図書館のはるやすみ(3月公開予定)
2021年空耳図書館のはるやすみ(3月公開予定)

 本年もどうぞよろしくお願いいたします。コロナ一色の2021年がスタートしましたが、まもなく2011年の東日本大震災・原発事故からも10年が経ちます。まだ昨日のことのような3.11を機に、カナダの作曲家M.シェーファーが半世紀前に提唱したサウンドスケープを「耳の哲学」として、今日まで音楽の内と外を思考実験してきました。震災当時、社会を一瞬にして包み込んでしまった「想定外」や「絆」という”言葉の力”に、音楽家として何とも言えぬ危機感を抱いたからです。世界は言葉でできている。そして言葉は非言語の世界をいとも簡単に飲み込んでしまう。それまで言葉には無頓着だった自身の無知を猛省し、ここから「音楽とは何か?」という永遠の問いと向き合う時間がはじまりました。

 震災当時は小さな子どもの親として、目に見えなくとも確実に降り注いでいる放射能の問題に、常に「未来」の選択を迫られる緊張感の連続でした。食べてもいいのか?飲んでもいいのか?なぜ鼻血が出るのか?そしてこの切羽詰まった状況の中でもなぜ人間は音を放つのか、ピアノを奏でるのか?子どもの頃から当たり前にしてきたことの理由がすっかり見えなくなってしまったのです。

 偶然、ある人が自治体市民大学の仕事を辞めて家族で九州に避難し、都会から郊外に移り住んだ私が後任に就くことになりました。30年以上も続く社会教育としての市民大学には福祉学、環境学、法学、国際学など、大学の授業さながらの講座が揃い、自分にとっては専門外の講座を企画するうちに視野は音楽の「外」へと大きく広がっていきました。まさにサウンドスケープのように世界が鳴り響き、同年秋から弘前大学大学院今田研究室でサウンドスケープ/サウンド・エデュケーションの研究、そして言葉×音の思考実験を始めました。

 行政の枠からもっと自由度の高い実践の拠点を探し始めた頃、相模原市が市民・大学交流センターを立ち上げ、弘前大学に籍を置きながらここにコネクトを設立する流れとなりました。そこからの6年間の日々はコネクト通信等をご覧いただくとして、まるで何かに導かれるように飛躍的に活動のネットワークが広がっていきました。

 思考実験そのものを「芸術活動」に、弘前大学の今田匡彦先生にはサウンドスケープを、母校である上智大学グローバルコンサーン研究所の寺田俊郎先生には哲学を、桜美林大学講師の青年団山内健司さん、鈴木健介さん、女子美術大学の講師でコネクト・レジデンスでもあった沼下桂子さん、また学会関係では全国の大学ともつながっていきます。空耳図書館からはアーティストユニットaotenjo(外山晴菜、橋本知久)さん、Koki ogmaさん、アトリエアルケミストの羽田先生、芝の家音あそび実験室のコヒロコタロウさん、きのこの時間案内人・小日山拓也さん、即興カフェ・鈴木モモさん、聾CODA聴・雫境さん、米内山陽子さん、牧原依里さんにもお力を借りました。2021年春には満を持して5年間カプカプでご一緒している新井英夫さん&板坂記代子さんにも空耳図書館にご登場いただきます。

 しかし何といっても文字通りの「想定外」だったのが2020年です。昨年1年、私は2011年以来ひさしぶりに個人アーティスト・ササマユウコに戻り、かつての音楽活動(CD製作やコンサート活動)のノウハウを思い出しながら過去の作品にも助けられ、映像製作やオンライン活動を展開していました(現在もです)。最初はオンラインには懐疑的でしたが、与えられた場を引き受けているうちに自分のやりたいことと相性が悪くないことにも気づきました。今後もさまざまな可能性を感じています。

 2011年当時10歳だった娘は現在大学1年生、今年20歳になります。入学式もないまま、オンラインで日々の学生生活を模索する様子を傍らで観ていると、コネクトの活動内容も新しい「かたち」にシフトする必要があると感じます。また一方で小回りのきく個人アーティストは、社会的には弱者ですがこの混沌の時代には自由でもあると感じています。自分にとって2020年に変わったことは進化、変わらなかったことは真実に他なりません。

 新しい芸術教育とは何か。それは「音楽とは何か」を問う延長に他なりません。2011年からの続きに2021年も存在しています。

 以下は、2020年の実績報告です。オンライン企画やレクチャーのご相談・お問合せ等はどうぞお気軽にメールを頂けたら幸いです。

ササマユウコの個人サイトも合わせてご覧ください。引き続き、どうぞよろしくお願いいたします。

【2020年活動】

・2月 神田川クルーズ取材

  聾CODA聴 対話の時間「空間と時間」アートミーツケア学会公募プロジェクト2019→中止

・3月 空耳図書館哲学カフェ入門『生きるために考える、死』→中止

・4月 建築ジャーナル4月号『川のある暮らし』巻頭執筆

・5月 聾CODA聴 オンライン対話実験

・6月 エル・システマジャパン主催『LISTENリッスン』上映&監督トークセッション出演(オンライン)

・8月 東京アートにエールを 監督映像公開『空耳散歩#01 LISTEN/THINK/IMAGINE』

・9月 カプカプ祭り 音楽参加(オンライン

・10月 空耳図書館オンライン読書会進行役(文化庁文化芸術継続活動支援事業)

   空耳図書館きのこの時間(文化庁文化芸術活動継続支援事業)

・11月 アートミーツケア学会 登壇(伊藤亜紗さんWithトーク オンライン)

~12月 空耳散歩シリーズYoutube映像公開


ササマユウコ(音楽家・芸術教育デザイン室CONNECT/コネクト代表)

東日本大震災・原発事故をきっかけに音×言葉の対話から「音楽とは何か」を問い続けている。
1964年東京生まれ。3歳からピアノ、10歳から楽典を学ぶ。大学卒業後は映画、劇場、出版等の仕事と並行して2000年代にCD6作品を発表。都立国立高校、上智大学文学部教育学科(視聴覚教育、教育哲学)。弘前大学大学院今田匡彦研究室(サウンドスケープ研究2011~13)。町田市教育委員会生涯学習部まちだ市民大学嘱託職員・講座企画担当(2011~13)。2014年芸術教育デザイン室CONNECT/コネクト代表。路上観察学会分科会、空耳図書館ディレクター、即興カフェプロデュース、即興演奏、雑誌執筆等。

日本音楽教育学会、アートミーツケア学会、日本音楽即興学会